長屋の今月の少女趣味こうなあ
微風 伊藤桂一
掌(て)に受ける
早春の
陽ざしほどの生きがいでも
ひとは生きられる
素朴な
微風のように
私は生きたいと願う
あなたを失う日がきたとしても
誰をうらみもすまい
微風となって渡ってゆける樹木の岸を
さよなら
さよなら
と こっそり泣いて行くだけだ
虎さん 伊藤桂一さんは、一九一七年生まれの詩人で作家です。
ご隠居 掌(て)に受ける 早春の 陽ざしほどの生きがいでも
ひとは生きられる
そうやなあ。春になるとこの冒頭の一節を思い出すなあ。わしなんか、春になったらほんまにそう思うもんなあ。
熊さん ご隠居は、全身陽ざしをあびようと、わざわざハンモックまでつるしてましたもんなあ。
虎さん あのハンモックで、昨日転落したらしいですな。
ご隠居 そんなことはどうでもええことやけど、年間の自殺者が三万人を越えているという事実を思うと、比喩の意味ではなく、実際に早春の陽ざしを手のひらに感じることの大切さをわしは思うのや。
虎さん そういえば次の一節に中島みゆきの歌を思い出すのですが・・。
熊さん みんな思い出すのが好きやなア。みゆきフリークの虎さん、中島みゆきのなんていう歌。
虎さん 寄り添う風という歌や。
『理由もなく会いたいのに理由を探してる
会わなければならないのと理由を探してる
人恋しさは諸刃の剣 かかわりすぎて あなたを苦しめるくらいなら
寄り添う風 それだけでいい あなたの袖を揺らして
寄り添う風 それだけでいい 私は彼方で泣く』
ちょっと聞いてきます。
熊さん ああ、風みたいに飛んで行ってしもた。